「おばあちゃんの歌声を残してくれてありがとう」。歌を録音した、その後に起きた5つの物語
僕は音楽を作っているつもりだったんですけど
僕は長い間、音楽を作る仕事をしてきました。
作詞、作曲、編曲、レコーディング。
プロのアーティストの作品を作ることもあれば、最近では一般の方と一緒に歌を録音したり、オリジナル曲を作ったりすることも増えてきました。
そんな中で、最近、ちょっと面白いことに気づいたんです。
それは、音楽って完成して終わりじゃないんだなということ。
むしろ、完成した音楽がスタジオを飛び出した後に、思いがけない出来事が起こっているんですよ。
今回は、そんな5つの物語を紹介したいと思います。
1. 一曲の歌が、誰かの朝ごはんを変えた
栄子さんのオリジナル曲『ちゃわん』。
栄子さんは、人の命や健康と向き合う仕事をされてきた方です。
そこで大切だと感じていたのが、毎日の食事。
朝はちゃんとご飯を食べよう。
納豆やお味噌汁を食べよう。
そんな思いを歌にしたんです。
この歌をYouTubeで発表あと、歌を聴いた別の方から、こんな話が届いたんです。
その方は、家族の介護のためによく出かけていました。
家族のことを優先していると、自分の朝食はつい簡単に済ませてしまう。
でも『ちゃわん』を聴いてから、
「ああ、家族のことも大切だけど、自分もちゃんとご飯を食べなきゃ」
と思うようになったそうです。
それで、朝にご飯と納豆とお味噌汁を食べるようになった。
これを聞いたとき、僕はびっくりしました。
だって、一曲の歌が、誰かの朝ごはんを変えたんですよ。
ただ「いい曲ですね」と言ってもらうだけじゃなかった。
その歌が、誰かの日常生活の中に入っていった。
音楽って、こんなことも起こるんですね。
2. 昔は泣きながら聴いていた歌を、今は楽しく口ずさんでいる
ある方が、思い出の一曲を録音するセッションに参加してくださいました。 その方には、人生のとても苦しかった時期があったそうです。
その頃、ある曲を何度も聴いては涙を流していた。
その歌に、ずいぶん支えられたそうなんですね。
でも、聴いていた曲だからといって、自分で歌ったことはなかったんです。
「私には歌えないかもしれない」
そう思いながらも、思い切ってスタジオに来てくださいました。
そこで、その方の思い出を聞きながら、今の声でその曲を歌ってもらったんです。
原曲と同じように歌う必要はありません。
その方の声で、その方らしく歌えばいい。
そして、録音が終わりました。
すると後日、こんな連絡が届いたんです。
「歩きながら、あの歌を口ずさんじゃうんです」
僕は、これが本当に嬉しかった。
昔、泣きながら聴いていた曲を、今は楽しく口ずさんでいる。
曲は同じなんですよ。
でも、その方と曲との関係が変わったんです。
過去が消えたわけではありません。
けれど、今の自分でその歌を歌ったことで、新しい思い出が加わった。
音楽って、そんな体験にもなるんですね。
3. 歌っている自分を見て、自分のことが好きになった
子どもの頃、人前で話すことも歌うことも、とても苦手だったという廣江まさみさん。
みんなの前に出ると顔が真っ赤になってしまう。
歌うなんて、恥ずかしくてできなかった。
でも、好きな歌はあったんです。
大人になってから、その思い出の一曲を歌ってみることになりました。
そして、録音した歌と映像を、後からご自分で見たんですね。
すると、こんな感想をくださったんです。
「私、なんだかとっても嬉しそう」
これ、素敵だと思いませんか?
歌が上手だったとか、完璧に歌えたとか、そんな話じゃないんです。
自分が歌っている姿を見て、自分のことをいいなと思えた。
子どもの頃は、恥ずかしくて歌えなかった。
でも、今は楽しそうに歌っている自分がいる。
そんな自分を見つけることができたんです。
僕は、音楽にはこういう楽しみ方もあると思っています。
歌うことを通して、今まで知らなかった自分に出会う。
それも、音楽の大きな魅力ですよね。
4. 「おばあちゃんの歌声を残してくれてありがとう」
99歳の小熊さんの歌を録音させて頂きました。
頂きました。
歌っていただいたのは、若い頃に親しんでいた思い出の曲「湖畔の宿」です。
何十年も前に聴いていた歌を、今の声で歌う。
それ自体、すごい体験ですよね。
そして完成した歌を、ご家族にも聴いていただいたんです。
すると、ご家族が想像以上に喜んでくださった。
親戚が集まるときにも聴いてもらいたい、というお話もありました。
そして、
「おばあちゃんの歌声を残してくれてありがとう」
という言葉をいただいたんです。
これを聞いて、僕は改めて思いました。
歌って、歌っている本人だけのものじゃないんですね。
その人の声を聴けること。
その人が好きだった歌を知ること。
何年も後になって、その声を聴きながら思い出を話せること。
今の何気ない歌声が、未来の家族にとっては、かけがえのない宝物になるかもしれない。
そんなことを感じた出来事でした。
5. お孫さんのために作った歌が、家族の宝物になった
もう一つ、こんなお話もあります。
お孫さんが生まれたことが嬉しくて、一曲のオリジナル曲を作った方がいました。 もともと音楽が好きで、ピアノを弾いていらっしゃった方です。
その方が作った曲を、僕が編曲して、いろいろな楽器の音を加えていきました。
そして、ご本人の歌声を録音して、一つの作品に仕上げたんです。
すると、完成した音楽を聴いて、とても喜んでくださいました。
シンプルだった曲に、広がりや動きが生まれた。
さらに、ご自分の歌声を聴いて、
「自分の声じゃないみたい」
と驚かれたんです。
ご家族にも聴かせたら、若い人が歌っているようだという感想もあったそうです。
僕が素敵だなと思ったのは、そこにお孫さんへの思いが乗っていたことです。
上手に歌おうとすること以上に、
「あの子にこの歌を残したい」
という気持ちがある。
だから、歌声も楽しそうに感じられたんですね。
自分で作った曲。
自分の言葉。
自分の声。
それを、大切な誰かに届ける。
こんなにその人らしいプレゼントって、なかなかないんじゃないでしょうか。
音楽をやってみたい理由は、何でもいい
こういう体験を重ねていて、最近気づいたことがあります。
音楽をやってみたいという人には、いろいろな理由があるんです。
誰かに残したい。
子どもや孫に聴かせたい。
大切な人にメッセージを届けたい。
そんな人もいれば、
昔から歌ってみたかった。
一度、自分の声をきちんと録音してみたかった。
自分で曲を作ってみたかった。
という人もいます。
僕は、どちらもいいと思うんです。
誰かのためでも、自分のためでもいい。
そして、最初は自分のために歌ってみたのに、その歌が誰かの宝物になることもある。
逆に、誰かのために作った歌が、自分自身の楽しみを増やしてくれることもある。
音楽って、そういうところが面白いんですよ。
あなたなら、何を歌ってみたいですか?
僕は今、そんな音楽の体験をお手伝いしています。
昔好きだった歌を、今の声で残す「青春の一曲セッション」。
自分で作詞・作曲に挑戦するプログラム。
そして、僕が作詞・作曲・編曲をお手伝いして、オリジナル曲を完成させる楽曲制作。
でも、最初からどれを選ぶか決めなくてもいいと思っています。
「こんな歌を残してみたいんです」
「こんな思いを曲にできるでしょうか?」
そんな話から始まってもいいんです。
そして、すぐに何かを作らなくたっていい。
まず、自分にとって大切な一曲を思い出してみる。
それだけでも、何かが始まるかもしれません。
あなたが今、一曲だけ歌を残すとしたら、何を歌ってみたいですか?
誰に聴いてもらいたいでしょうか。
自分のためだけでも、もちろんいいんです。
僕は音楽を作っているつもりだったんですけど。
どうやら、その先にはもっと面白い世界が広がっているみたいです。
音楽を作って終わりじゃない。 その音楽が誰かの人生に入ったところから、また新しい物語が始まる。
これからも、そんな音楽を一緒に作っていきたいと思っています。









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