レコーディングって、音を録ることじゃない。人との対話なんです。
レコーディングというと、どんなイメージがありますか?
マイクの前に立って、
ヘッドホンをして、
カラオケが流れて、
歌う。
それをパソコンで録音する。
もちろん、それもレコーディングです。
でも僕は、長く音楽制作をしてきて、
レコーディングって、単に音を録る作業じゃないな
と思っています。
もっと人間的なものです。
僕の感覚では、
レコーディングは、人との対話なんです。
「3時から録音する」と決めても、3時にいい歌が歌えるとは限らない
もちろんスケジュールは決めます。
「今日は15時から、この曲を録りましょう」
と予定を立てる。
でも、人間は機械じゃない。
15時になったら自動的に最高の歌が出てくるわけじゃありません。
その日の体調もある。
声の状態もある。
気分もある。
「今日はこの歌を歌いたい」
という気持ちもあれば、
「今はちょっと違う」
という時もある。
だから僕は、なるべく複数の曲を録音できる状態に準備しておきます。
今日はこの曲の予定だった。
でも歌い手が、
「こっちの曲を歌ってみたい」
と思ったなら、そちらをやってみる。
それでいい。
作品には、
作品自身の時間
みたいなものがあるんですよね。

「もう一回歌う?」の判断が、とても大事
一回歌い終わります。
その時に制作側には、いくつか選択肢があります。
もう一度すぐ歌ってもらう。
今のテイクを聴いてみる。
少し話す。
休憩する。
たったそれだけのことなんですが、この判断で、その後の歌が変わることがあります。
今、すごく気持ちが乗っている。
だったら、いちいち止めない方がいい。
「今の良かったね。もう一回いこう」
と、そのまま次のテイクへ行った方がいいこともあります。
逆に、
ちょっと立ち止まって、
「ここの言葉、どう歌おうか」
と話した方がいいこともある。
これってマニュアルでは決められないんです。
目の前にいる人を見ながら決める。
だから対話なんです。
休憩するタイミングも、音楽の一部
歌っていると、声は少しずつ変わっていきます。
身体も温まってくる。
最初より声が鳴るようになることもあります。
でも、その一方で疲れてもくる。
だから、
「もう少し歌った方がいいのか」
「一度休んだ方がいいのか」
を考える。
これも面白いところです。
一番いい状態って、数字では出てこない。
何分歌ったから休憩、というだけでもない。
その人を見て、
その声を聴いて、
その場の空気を感じる。
そして決める。
レコーディングって、かなり繊細なんです。
制作側の仕事は「流れを止めないこと」
もう一つ、僕がかなり意識しているのがスピード感です。
歌っている人が気持ちよく音楽の中に入っている時に、
「ちょっと待ってください、録音ボタン押し忘れました」
なんてことが起きたら(笑)、そこで流れが切れてしまう。
もちろん人間だから失敗はあります。
でも制作する側は、なるべく歌い手が音楽以外のことを考えなくていい状態を作る。
準備しておく。
次のテイクをすぐ録れるようにする。
必要なデータも整えておく。
技術って、目立つためにあるんじゃなくて、
人が表現する流れを止めないためにある。
僕はそう思っています。

音楽は「足し算」より「引き算」
今回の藤野櫻子アルバムでは、コーラスもかなり録っています。
僕も藤野櫻子も合唱をやっていたので、コーラスが好きなんです(笑)。
「ここにもう一本入れたら面白い」
「こんなハーモニーもある」
なんてやっていると、どんどん増えていく。
でも、そのまま全部使うとは限りません。
音楽制作って面白くて、
一度たくさん入れてみて、
そこから、
「これはなくてもいい」
「ここはもっとシンプルな方がいい」
と引いていく。
最後に残ったものが、その曲の音になる。
僕は音楽って、
引き算の芸術でもある
と思っています。
人間も同じかもしれないですよね。
何でも足せば魅力的になるわけじゃない。
余計なものを取っていくと、その人らしさが見えてくることもある。
手順は必要。でも、手順だけでは面白くない
長く制作をしていると、手順は分かってきます。
ここまで録ったら次はこれ。
ボーカルを整理したらMIX。
ここを確認したら次へ進む。
ある程度の型があります。
型があるから、仕事は早くなる。
でも、全部を型どおりにやったら、面白くなくなるんですよね。
作品ごとに、
「今回はこうしてみよう」
という小さな冒険を入れる。
コーラスの作り方かもしれない。
音の置き方かもしれない。
歌い方かもしれない。
作品には、少し予定外のものがあった方が面白い。
効率だけを考えたら、たぶん生まれないものがある。
僕はそう思っています。
いいレコーディングは、いい人間関係から生まれる
結局、レコーディングで大切なのは、
いい機材だけでも、
高いマイクだけでも、
最新のソフトだけでもない。
もちろん、道具は大切です。
でも最後は、
「この人なら、自分の声を預けてもいい」
と思えるかどうか。
失敗してもいい。
もう一度やってもいい。
「今日はちょっと違う」と言ってもいい。
そんな空気があると、人は少し自由になる。
自由になると、声も変わる。
だから僕は、
レコーディングは本当に、人間同士の対話だと思っています。
音楽を作っているようで、関係を作っている
歌を録る。
音を重ねる。
必要ないものを引く。
話す。
もう一度歌う。
休む。
また歌う。
そうやって最後に一曲が出来上がる。
でも、あとから振り返ると、
作っていたのは音源だけじゃなかったりするんですよね。
その時間の中で、
人と人の間にも何かが生まれている。
僕が音楽制作を面白いと思う理由は、たぶんそこです。
音楽を作っているようで、人との関係を作っている。
そして、その関係の中から生まれたものが、最終的に「音」として残る。
だからレコーディングって面白い。
ただ歌を録音する場所じゃない。
その人の中にあるものが、音楽になっていく場所なんです。
僕はこれからも、そんな制作をしていきたいと思っています。









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