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声は覚えている

先日、ある方とお話をしていて、 不思議なことに気づきました。

普段は穏やかに話しているのに、ある出来事やある言葉になると、 急に息が苦しそうになるのです。

声が変わるというより、呼吸が変わる。

まるで胸の奥が少し 締めつけられるような感じでした。

僕は長年、歌や声に関わる仕事をしていますが、 こういう場面を時々見かけます。

「どうして、その話になると 苦しそうなんだろう」

そう思って丁寧に話を聞いてみると、 そこには過去のつらい出来事や、まだ整理しきれていない感情が 隠れていることがあります。


人は忘れる生き物です。

楽しかったことも、悲しかったことも、 時間が経つと少しずつ薄れていきます。

でも僕は最近、

「声や息は 忘れていないのかもしれない」

と思うようになりました。


頭では忘れていても、身体は覚えている。

だから何気ない会話の中で、ある言葉に触れた瞬間だけ、 呼吸が浅くなることがある。

それはきっと、身体からの小さなメッセージなのだと思います。



僕が「思い出の一曲セッション」を始めた理由も、実はそこにあります。

昔好きだった 歌。

青春時代に何度も聴いた 曲。

恋をしていた頃の 歌。

夢を追いかけていた頃の 歌。

その歌を聴くと、 不思議なくらい当時の景色がよみがえることがあります。

忘れていた 感情。

忘れていた 約束。

忘れていた 夢。

忘れていた 自分。

歌には、そういう人生の記憶が たくさん詰まっています。

だから歌うという行為は、単に音楽を楽しむことだけではなく、

「自分自身を思い出すこと」

なのかもしれません。



僕自身も最近、 38年前に大好きだった曲を人前で歌いました。 高校生の頃、こんなふうに歌えたらいいなと思っていた曲です。


当時はとても無理だと思っていました。

声も出ないし、技術も足りない。

でも38年経った今、 こうして人前で歌うことができました。

その時に感じたのは、

「あの頃の自分は、今もちゃんとここにいる」

ということでした。

歌は時間を超えて、 昔の自分と今の自分をつないでくれる。

そんな力があるのだと思います。


もし最近、

なんとなく元気が出ない。

自分が何をしたかったのかわからない。

昔の自分を思い出せない。

そんな気持ちがあるなら、

一度、自分の青春の一曲を聴いてみてください。

そしてできれば、少しだけ声に出して歌ってみてください。

上手に歌う必要はありません。

歌詞を間違えてもいい。

ただ息を吸って、声を出してみる。

それだけで、何かが少し動き出すことがあります。

声は覚えています。

息も覚えています。

そして歌は、人生の忘れ物を取りに行くための地図なのかもしれません。

あなたの思い出の一曲は何ですか?


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