2021年1月20日
アメリカ大統領就任式が開催され、Lady Gagaさんが国家斉唱されました。
今回ボーカルトレーナーの視点から、歌をどのように私たちが聞いているかをご紹介したいと思います。
『不納得な歌声』だったのでは?
まず今回のGagaさん、結論として「悔しい!失敗した!」と本人が感じた国歌斉唱だったのではないでしょうか。
私もいつものGagaさんとは、「ちょっと違うな」という印象でした。 低音の鳴り、響きの良さは健在で、さすがという感じですが、やはり非常に緊張していたのは当然だと思います。
今回、本領発揮できなかった要因を、いくつか私なりに書き出してみます。
・晴れの大舞台で失敗は許されないという緊張感
・雪もちらつくほどの寒さ
・時間は昼12時前後という、いつものライブよりかなり早い時間
・おそらく会場での事前リハはほぼなく、音響状況が読めない
と言った感じでしょうか。
そして「格式ある式典」ということで、歌い方がどこかいつもと違う『クラシックのように歌う』感じに見えました。
歌うたいは「ちゃんと歌おう」とすると、「いい声」を出そうとするので「クラシック的な発声」に謝ってしてしまうことがあります。
これは非常に危険です。
逆に声がこもってしまい、声が出なくなります。
ちゃんと歌うことより「いつも通り、のびのび歌う」というのが、こういう時こそ必要になり
ますね。
※歌い終わった表情もどこか悲しげ。。。
『常にアクセルとブレーキを同時に踏んでいる感じ』
素晴らしい晴れ舞台!思い切ってアクセルを踏み込んでのびのび歌いたい!
でもそうすると、声がぶれて音程も乱れてしまうので、ブレーキをかけざるをえない。
しかし、ブレーキもかけすぎると、晴れの舞台としてのスケールが小さくなってしまう。。。
そんな「葛藤」の中で歌っている、といった印象を受けました。 歌のレッスンで私はいつも「3つの勉強をしましょう」と話しています。
1:技術力
2:表現力
3:心の統制力
こういう大舞台では、結局「心の統制力」に、勝負がかかってきます。
いかにいつも通り歌うか。
「やろう!」とすると「できなくなる」
これが歌の不思議なところ。
百戦錬磨のGagaさんでも、「心の統制力」は難しいんだなと、改めて「心の統制力」の重要性を感じたステージでもありました。
もちろん、ご本人がどう思っていたかは、実際には私が知る由もありませんが。
あくまで私がこれまで30年、歌を見てきた経験で、推測でのお話ですので、お許しください。
『細かく聞いてみましょう』
それでは私なりにですが、このページのトップに置いた動画を見ながら、気づいたことを書いてみますね。
1:04
最初のブレスから次の発声で、呼吸のコントロールが乱れましたね。 そのために、次のフレーズの高い音が少し#しました。
呼気が少し強くなってしまったと思います。
1:23
上記の#をきっかけに、全体に慎重な歌い方に切り替えた印象があります。
しかしそれにより「発声お化け」的になり、声のアタリが後ろに奥まり出しました。
こうなると喉が閉まり「吸気が浅くなる」「高音が出にくくなる」という状態におち入りやすくなります。
さて、この後 大丈夫でしょうか・・・・
1:44
このあたり、非常に丁寧に慎重に歌っている印象ですね。
のびのび感がないので、なんだか聞いていて、こちらが緊張してしまいます。
1:48
ここの高音は、初回と違い丁寧で安定していますね。
少し余裕が出てきて、リラックスした綺麗な響きで歌えていると思います。
ここは、初めて体を動かす部分なので、少しいつものGagaさんらしく、伸びやかさが出ている印象です。
1:57
ここでのブレスは、失敗だったのでは無いでしょうか
「さあ、次が見せ場よ!」という気負いなのか、息は吸っていますが、呼吸の入っている場所が思った以上に浅い。
そうなると、次の声が出るか、聞いててドキドキします。
2:03
前のブレスで力んだので、ここのブレスは比較的丁寧にしてますね。
なので、続く下降フレーズも若干#しつつも、クリア。
ちょっと安心です。
ただ、ここの高音は、完全に守りに入っている感じとも言えました。
声の芯が抜けてしまい、力強さに欠ける印象で、勿体無い感じを受けました。
2:18
ここの「still」と「there」の間のブレスから、高音での裏声は、完全に失敗でした。
『our flag was still there』と後ろに手を振りかざし、並ぶ旗に振り向くパフォーマンスで「さあ、ここが山場だぞ」という気負いが裏目に出た印象です。
よく聞いてみると「Still」といった後に一度完全に、息を吐き捨ててしまったので、そこに続くブレスが完全に入りきらず「there」のロングトーンが不安定で、途中裏返りましたね。
これは流石に「やってしまった」感をご本人も感じているのではないでしょうか。
2:25
続く低音は歌やすいので、そのままの流れで自然に歌えてますが、逆に楽に歌える部分だからこそ、その前の「やってしまった〜」という焦りや悔しさの気持ちが、残ってしまいやすい部分でもあります。
2:28
その動揺からか、ここは完全に音程外しました。
声に力もなく、聞いてても「大丈夫か?!」とドキドキしましたね。
2:33
バッと振り向き「切り替えるわよ!!!」という潔さは、さすが長年ライブをしてきた貫禄!
しかし!
またブレスが雑になってます。 さあ、次のフレーズは大丈夫なのか!?
またまた聞いていて、ドキドキが続きます。
2:34
さあ、最後の見せ場!でしたが。。。ここも失敗しました。。。
残念。 「O'er the land」はフェイクから入る部分で、本来ならばGagaさんお得意なところだとは思うのですが、その前からの動揺が影響してか、フニャフニャした感が出てしまいました。
そしてよく聞くとこの「land」の最後(語尾)で、また息が抜けちゃったんですね。
そうなると、そのあとのブレス(吸気)が、かなり入りにくくなります。
次はまた高音がきますが、大丈夫なのでしょうか。
ドキドキが続きます。
2:39
ロングトーン崩れました〜。
声や表情からも「今日は声が出ない〜〜〜!!!!!」と言っているかのようです。
2:41
最後まとめのフレーズ。
最後は「私は絶対に負けないぞ!」と気迫の歌声。
しかし「of the」でかなり「リズム」突っ込みましたね。
本来ならば、ここはシンガーの余裕を見せる部分でもあるので、伴奏よりもリズムをためて、たっぷりリタルダンド(だんだんゆっくりする)をするところではないかな?
そういう意味でも、焦りが感じられてしまいました。
2:52
最後のロングトーンは、少し安定したのか、簡単なフェイクを入れて締め。
でも、思ったより切り上げが早い印象です。 あと3拍くらい伸ばして欲しかったなと思いました。
そこまでの余裕がなかったのかも知れません。
3:16
歌い終わった表情ですが、私には「悔しい!失敗した!」という風に見えたのですが、気のせいでしょうか。
『スーパーボウルハーフタイムショーでのパフォーマンス』
この動画は『ペプシゼロスーパーボウルハーフタイムショー』です。 この時の歌とパフォーマンスは、圧巻でした。 今回、もちろん舞台が違いますから、仕方がないのはわかっているのですが、本来のGagaさんの良さが、出し切れなかったのではないかと感じてしまいました。
『晴れ舞台での難しさ』
今回Gagaさんのステージを見て、思い出したものがあります。
2014年のオスカーでイディナ・メンゼルさんが大ヒットの"Let It Go" を歌ったステージ。
数々のステージを経験してきたはずのイディナ・メンゼルさんが、まさかのアクシデント。
私は今回のGagaさんと、同じ状況に落ちいったように感じました。
この時のイディナ・メンゼルさんの歌声は、公式の動画すら残ってないので、おそらく残しておけないと思ったのかも知れません。
やはりこれほどのスターでも、緊張との戦いをしているのだなと、しみじみ感じています。
技術力、表現力は常に練習できますが、
最後の最後はやはり「心の統制力」になるのだな、と痛感したステージでした。
皆さんは、どうお感じになりましたか?^^
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